スピードテストアプリの結果は信じすぎないように!気になる通信の仕組みをIIJの中の人に聞いてみた
カテゴリ: #格安SIM・格安スマホ
スマホやSIMの性能を確認するのに便利な、スピードテストアプリ。
さまざまなメディアでその結果を目にすることも多い。またアプリをダウンロードすれば、自分で通信速度を計測することも簡単だ。
しかし、その数値は本当に信頼していいものだろうか。
スピードテストで留意しておきたいポイントや、通信が遅くなる理由。そしてさまざまなアプリが実際にはどのように通信を行っているかなどを、株式会社インターネットイニシアティブ(以下IIJ)の中の人に聞いてみた。
ついでによく耳にする「パケ詰まり」や「電波のつかみが悪い」といった現象についても説明してもらいました。
目次:
スピードテストの結果はあくまで参考値
スピードテストアプリの計測結果では、十分速かった。しかしYouTubeなどで動画を観ようとするとスムーズに再生しない……
みなさんはそんな経験はないだろうか?
そんなスピードテストアプリの測定結果と体感している速度の違いの原因を探るために、株式会社インターネットイニシアティブ(以下IIJ)お話をうかがった。
説明してくれたのは、プロダクト本部 プロダクト推進部 企画業務課 リードエンジニアの堂前清隆氏だ。
「まずスピードテストの計測結果は、参考値と考えたほうがいいですね。スコアに意味がないとは言いませんが、過信してはいけません」
開口一番、ちょっと意外な言葉が!
さまざまなメディアで目にすることも多いスピードテストによる計測結果だが、あまり当てにならないというのだ。
「いや、間違っているわけではありません。ただ、通信速度を正確に計測することは簡単じゃない、ということですね。闇雲に数値を出しても、実際にはまったく関係ない物に左右された結果だったという可能性もあるんです」
例えばMVNOのSIMを利用した通信速度を計測する場合、比較したいのは他のMVNOの速度。つまり、NTTドコモなどのMNOとMVNOの相互接続の部分を測定・比較したいはずだ。
しかしスピードテストの計測結果には、それ以外の要素が大きく影響する場合があるという。
※ 図版は、IIJ「スピードテストについて考える」発表資料を参考に作成
「テスト結果に影響を与える大きな要素は、
- スピードテストサーバーの混雑
- 基地局の混雑
- そしてユーザー付近の電波状況
などです。
こういった影響は場所によっても時間帯によっても大きく変化します。従って正確な計測というの非常に難しいのです」
スピードテストによる計測では、比較のための条件統一が困難ということだ。
また、例えば東京駅での計測といっても、計るたびに異なった基地局につながっている可能性もあるという。
「特に都心などの場合は、複数の基地局が集中して設置されています。ですので、続けて計測しても、たとえ両手に持って同時に測っても、別々の基地局につながってしまうことがあります。基地局によって混雑度合いは異なるので、それが計測結果にも反映されてしまうんですね」
スピードテストの結果は速度の平均値を表示するなど様々な加工がなされている
さらに計測値は、わかりやすいように加工されている点にも留意してほしい、と堂前氏は続ける。
「ひとつ例を挙げると、時間を細かく区切り、それぞれの区間での速度の平均値を結果として出しているスピードテストもあります。その区切りを0.3秒にするか0.5秒にするかでも、まったく異なった結果になる。またアプリによっては、極端に遅い数値や早い数値は、安定していないと見なされてカットされているようですね」
※ 図版は、IIJ「スピードテストについて考える」発表資料を参考に作成
※ 図版内の図はインターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会(第2回) 株式会社イードプレゼンテーション資料 より引用
この結果、例えばIIJmioなどが採用する「バースト(通信開始時の一定量は制限を解除して高速通信ができる機能)」といった仕組みは、スピードテストの結果には反映されないことが多い。
「測定値を鵜呑みにするのではなく、意味を理解したうえで参考にするのがいいでしょうね。スピードテストによる計測結果が、必ずしも体感速度と一致するわけではありません」
ただし通信速度に関しては、先日総務省のほうから、理論値だけでなく実測値を広告などでは併記するようにという指針が出ている。
まだ3大キャリアに限ったことだが、具体的には全国10都市、計1,500カ所での実測値を明らかにすることが義務づけられるようになる。通信速度を巡る状況がわかりやすくなることを期待したい。
計測結果はいいけどYouTubeがカクカク止まる!これってなんで?
冒頭で触れた、「スピードテストによる結果は高速なのに、YouTubeの再生がスムーズでないのはなぜ」という疑問に話題を戻そう。
堂前氏によれば、これには動画の送受信に特有の問題が絡んでいるそうだ。
「動画の配信では、データを大きなかたまりではなく、細かく分割された単位で連続して送信しているんですね。スマホ側はそれを連続して受信し、1つの映像にしているわけです。ただし電波が一時的に弱まったり、瞬間的に混雑が激しくなると、動画データの取得に失敗、再取得が行われます。するとデータの流れが動画の表示に追いつかなくな
り、映像がカクカクしたりするわけです。」
一方でスピードテストの結果は平均値なので、一瞬遅くなっても、トータルでスピードが出ていれば高速であるという結果が表示される。
さらにアプリによっては、前述のように極端に遅いところを切り捨てて速度が算出されている。
こういったことにより、スピードテストによる計測では通信速度が速いのに、YouTubeでの動画の再生がスムーズでない、といった現象が発生してしまうわけだ。
「動画などにおけるデータの送受信は、ウェブサイトなどの場合に比べてシビアなんですね。ウェブサイトの場合は、連続してデータを受け取れてなくても、最終的に表示できればいいわけです。動画に関しては、実は通信速度の速さより、安定してることの方が重要なんです。
あと、当然ながらスピードテストとYouTubeではサーバも異なりますし、トラフィックも絶えず変化するので、スピードテストの結果を反映しないこともあり得るのです」
よく耳にする「パケ詰まり」「電波のつかみ」って何?
通信速度に関しては、「パケ詰まり」という言葉をよく耳にする。わかったようでわからない表現なのだが、これはどういった状態を指すのだろう。この機会に堂前氏に聞いてみた。
「実際には詰まっているわけではないんですね。例えばネットワークの特定の部分が混んでる場合、何が起こるかというと、先ほどの動画の場合と同じように、データの破棄/再取得が発生するんです。これはTCP/IPの仕組みで、破棄されたデータはあとで再取得されます。
そういったことが連続して発生すると、急激に体感速度が遅くなってしまう。これを『パケ詰まり』と表現しているんでしょうね」
パケ詰まりは、特にターミナル駅やその近辺で発生することが多い。しかし詰まっているわけではなく、データの破棄と再取得が行われているわけだ。
ところで、パケ詰まりと並んでよく聞く言葉に「電波のつかみが悪い」というものがある。これはどんな状況なのだろうか?
堂前氏によれば、これは主にスマートフォンと基地局の間で発生する問題とのこと。
スピードテストのところでも触れたが、特に繁華街などの場合は複数の基地局が1つのエリア設置されている。例えば駅の近くだったりすると、近くのビルの上のほかホームの天井などにも小さい基地局が置いあることが多い。そのどちらかにスマートフォンはつながろうとするわけだが、1つが混んでいると、他の基地局を探しに行くことにある。場合によっては、複数回そういった挙動が発生することもあるという。
「そういった状況では、端末のアンテナのマークが消えてしまったり、安定しないといった表示になる。これが『電波のつかみが悪い』という状態ですね」
※ 図版は、IIJ「スピードテストについて考える」発表資料を参考に作成
※ 図版内の図はNTT DoCoMo テクニカルジャーナル Vol.12 No.3 FOMAの無線ネットワーク設計概要/その2 無線ネットワーク設計とパラメータ最適化の事例 より引用
アプリによってこんなに違う!快適に使えるかはアプリの通信状況に影響されます
ユーザーが通信速度にこだわるのは、それがスマートフォンの快適さに直結するからだ。なにしろ、ほぼすべてのアプリでデータ通信が行われているわけだから、それも当然だろう。
ただし堂前氏によると、アプリによって通信状況は大きく異なっているという。
「通信を常時行っているアプリや散発的に行っているアプリなど、実はかなり差があります。例えばウェブブラウザーの場合は、HTML、画像、バナー広告……といった具合に、細かくダウンロードしています」
下記に紹介するのはIIJmioでクーポンをOFFにした際の「バースト」の状況を示すためのグラフではあるが、Webブラウザやアプリなどの通信状況を示したものだ。図版とともに解説していく。
※ 図版は、IIJ「スピードテストについて考える」発表資料より引用
ブラウザアプリによるWeb閲覧(Yahoo! Japanの場合)
ラジオアプリの「radiko.jp」の場合
「ラジオアプリの『radiko.jp』の場合は、ちょっと独特な通信を行ってますね。数秒程度に分けた音声データを、何度も受信しているんです。ただデータ量は少なめなので、一瞬で取得してあとは通信せず待ってる状態です」
LINEは通話の場合とトークの場合で通信が違う
「一方LINEの場合は、利用するサービスでまったく異なっています。通話の場合は、常時通信が行われています。リアルタイムのやり取りだからですね。一方トークの場合は、ほとんど通信が発生していません。特にスタンプの場合は、何番のスタンプを送りましたという情報だけが流れているだけなので、データ通信量は非常に少ないんです」
アプリによって通信方法は違う
データ量が多いという印象のゲームアプリはどうなのだろうか?堂前氏によると、実はそれほど通信が発生しないものが多いそうだ。
「基本的には、最初にダウンロードしたデータでプレイを行い、結果のみを通信しているゲームが多いですね。新規にゲーム内のアイテムを取得した場合などには、もちろん通信が発生しますが。スマホ用ゲームはスマホ用に最適化されているわけです。リアルタイム性の高い通信対戦を行うゲームや、画像やデータを頻繁に読み込むゲームでは、やはりある程度の通信速度が必要になります。」
まとめ
スピードアプリについて、そして通信速度が遅くなるメカニズムなどをIIJの堂前氏にうかがった。スピードテストに関して、結論として正確に測定する方法は様々な要因が影響するため今のところ難しいとのこと。
今回のインタビュー内容にあるように、通信速度が遅くなるメカニズム、そしてアプリごとにデータ通信には特徴があることを理解したうえでスマートフォンを利用することが、スマートフォンを楽しむための方法の1つと言えるかもしれません。
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