eSIMとは?メリット・デメリットをわかりやすく解説
カテゴリ: 格安SIM・格安スマホ
日本国内では「Apple Watch Series 3(GPS+Cellularモデル)」やドコモのタブレット「dtab Compact d-01J」で提供が開始され、FREETELの発表でも話題になり、今後の展開にも期待が寄せられる次世代のSIM規格「eSIM」(イーシム)。
今回の記事では次世代規格のeSIMについて、できるだけわかりやすく解説させていただきます。
目次:
そもそもSIMとは?
昨今のスマートフォンやタブレットに欠かせない「SIM」は「Subscriber Identity Module(加入者認識モジュール)」の頭文字を取って呼ばれている、いわゆる携帯電話情報カードの略称・俗称です。今ではSIMといえば「スマホに入っている小さなカード」という感じで認知されていますよね。
SIMには1枚1枚に電話番号情報が書き込まれていて、そのSIMカードをスマートフォンやSIMスロットを搭載しているタブレットなどに挿すことで、SIMに登録されている電話番号情報が読み取られ、そして契約しているプランを元にしたサービスを利用できるようになります。
初期の携帯電話やauなどの一部のスマートフォン登場時点では、端末本体に電話番号情報を読み込ませたり上書きする規格の「ロム」が採用されていたのですが、通信規格の進化や国際ローミングの強化に伴い世界規格の携帯電話情報カード「SIM」が登場し、国内では特にSIMフリースマートフォンや格安SIMの普及と共にSIMも急速に普及していきました。
今では国内キャリア(ドコモ・au・ソフトバンク)や格安SIMブランドにおいてSIMは当たり前。もちろん世界規格なので海外でもSIMは当たり前です。もはやSIMは世界共通の単語と言えるかと思います。
埋め込み型SIMこと「eSIM」
そしてここ数年で新たに登場した「eSIM」は「embedded Subscriber Identity Module」の略称で、SIMの次世代規格です。“embedded”は“埋め込み型”の意味。つまりeSIMは機種本体に埋め込まれたSIMということになります。
日本国内におけるeSIMは、2017年5月に発売されたドコモの「dtab Compact d-01J」、そして9月に発売された「Apple Watch Series 3」にて、個人消費者(コンシューマー)向けとして初めて登場しました。
ただ、Apple Watch Series 3に採用されているeSIMは本来の形となる埋め込み型となる一方で、dtab Compact d-01Jで採用されているeSIMは従来のSIMカード型で埋め込み型ではありません。
ここで疑問にとなるのが、「同じ埋め込みでも、ロムとeSIM違いは何?」「埋め込みではないSIMカード型のeSIMって何?」ということでしょう。
eSIMのメリット
上記のeSIMに関する疑問は、eSIMのメリットを知ることで解消されるかと思います。
eSIMは埋め込み型のSIMという意味ではあるのですが、実はこれまでのロムやSIMとは大きく異なる仕様となっています。その代表となるのが、ユーザー自身が手軽に携帯電話情報を書き換えることができる点です。
手持ちのスマートフォンなどから手軽に電話番号情報を書き換えることができるので、例えば自宅や出先で簡単にケータイキャリアを変えたり、海外旅行に行った際にいちいち現地のプリペイドSIMなどを購入して差し替える必要もなく、eSIM内部の情報を現地のキャリアに切り替えてすぐに現地のモバイル通信を利用できたりします。(eSIM対応キャリアに限る)
ロムの場合は携帯電話本体をケータイショップに置いてある専用端末につないで書き換え処理を行う必要があります。ロムのデメリットはその手間で、携帯電話本体を専用端末につなぐ必要があるため、機種変更を行うためにわざわざケータイショップに出向く必要がありました。
従来のカード型SIMの場合は、携帯電話情報を書き込む専用端末にまっさらな状態のSIMを置いて電話番号情報を流し込む必要があります。カード型SIMのデメリットは一度書き込んだ電話番号情報を上書きできない点。つまりカード自体がある意味使い捨てとなるわけです。
eSIMの代表的なメリットとなる気軽な携帯電話情報書き換え処理は、ロムとは異なりケータイショップに出向く必要がなく、カード型SIMとも異なり上書きすることができるので、これらのデメリットを解消するわけです。更に携帯電話情報を書き換えるだけなので、事実上は事務手数料やSIM発行手数料が不要となります。(キャリアが手数料を設定するかどうかは別)
またdtab Compact d-01Jに付属されるSIMカード型のeSIMは、SIMカード型でありながらeSIMの携帯電話番号情報書き換えに対応するため、理論的には従来のSIMスロット搭載スマートフォンやタブレットにSIMカード型eSIMを挿して運用することができます。(ただしドコモではeSIM対応機種以外のeSIM使用は推奨されていません)
いわばカード型SIMにeSIMの特性がembedded(埋め込み)されているというニュアンスで理解するとわかりやすいかと思います。
このほかeSIMのメリットとして、1つのeSIMに対して複数の携帯電話情報を登録できる点、1つの携帯電話番号情報を複数のeSIMで共有できる点もあります。
1つのeSIMに対して複数の携帯電話情報を登録できるメリットは、例えば海外旅行に行った際に現地のeSIM対応キャリアに切り替えることができる機能などに応用されています。この代表的なのが、GoogleのMVNOサービス「Project Fi」です。
Project Fiは米国内の複数のキャリアや世界130カ国以上のキャリアと提携する、複数キャリアの中から最適なネットワークや海外渡航の際に現地のProject Fi加盟キャリアに簡単に切り替えることができる、マルチキャリアのMVNOサービスです。SIMを挿したまま最適なキャリアに切り替えてモバイルネットワークを利用できる点が最大の特徴で利点ともなっています。
またApple Watch Series 3(GPS+Cellularモデル)に内蔵されているeSIMは、iPhoneに挿しているSIMの携帯電話情報をApple Watch Series 3でもシェアして利用することができるようになっていて、Apple Watch Series 3単体でiPhone挿しているSIMの番号を利用したデータ通信と通話を行うことができます。
ただし日本国内においてApple Watch Series 3のeSIMサービスは今のところ3大キャリアでしか利用することができず、ドコモの「ワンナンバーオプション」・auの「ナンバーシェア」・ソフトバンクの「Apple Watch モバイル通信サービス」の有料オプションに加入する必要があります。
日本国内におけるeSIMプラットフォームは3大キャリアの回線を利用する格安SIMブランドにはまだ解放されていないため、格安SIMにおけるeSIMサービスが開始できないのが現状です。
eSIMのデメリットは?
こんなに便利なeSIMにもデメリットがあります。どんなデメリットがあるかというと、簡単にキャリアを切り替えることができてしまうため、なかなかキャリアが乗り気になってくれない点です。
特にキャリアの囲い込みが激しい日本において、ユーザーが簡単にキャリアを切り替えられるeSIMは敬遠されがちな規格となります。このことがeSIM自体の普及の妨げになってしまうことは否めないでしょう。
そもそもdtab Compact d-01Jで採用されているeSIMはキャリアを切り替えることができるeSIMではなく、dtab Compact d-01J自体で初期アクティベートしたり携帯電話情報を上書きできるeSIMとして利用されています。他のキャリアに乗り換えられるようなサービスを、ドコモをはじめとした大手キャリアが展開するはずがありません。
次のデメリットは、初期アクティベートができる機種が現時点で限られている点です。例えばドコモのdtab Compact d-01Jに付属されるSIMカード型のeSIMは、dtab Compact d-01Jでないと初期アクティベートすることができません。Project Fiも同じで、Project FiのSIMとセット販売されている機種でないと初期アクティベートは不能。
現時点ではeSIMに対応した機種でしかeSIMは利用できないと理解していただいても構わないでしょう。
ただし初期アクティベートさえしてしまえば、SIMカード型のeSIMであれば他の機種に差し替えて利用することは、理論的には可能です。とはいえ利用途中のキャリアの切り替えなどで支障が出たり、そもそもキャリアの切り替えができなかったりするため、eSIM非対応の機種での利用は推奨はされていいません。
eSIMの海外事例
eSIMは日本国内ではdtab Compact d-01JとApple Watch Series 3(GPS+Cellularモデル)でコンシューマー向けサービスが開始されていますが、本来のeSIMの利点を最大限に生かしたサービスとは言えないかと思います。
そこでeSIMの利点を最大限に生かしたサービスの海外事例をご紹介します。Googleが2017年後半に発表し、そして米国などで発売されたハイスペックスマートフォン「Pixel 2」「Pixel 2 XL」です。(以下Pixel 2に統一)
Pixel 2は従来のSIMスロットも搭載しつつ内蔵型のeSIMも搭載しているハイブリッドSIM仕様のスマートフォンです。米国では先にご紹介させていただいたProject Fiの回線とPixel 2本体のセット販売が行われています。そしてProject FiではPixel 2で初めて内蔵型eSIMサービスの提供を開始しました。
Pixel 2とProject Fiをセット契約して初期アクティベートすると内蔵型eSIMに携帯電話情報が書き込まれるため、SIMスロットにSIMを挿さない状態でProject Fiと提携している米国内キャリアのモバイルネットワークを利用することができるんです。
更にこの状態で英国などのProject Fi提携キャリアがある国に行くと、現地に着いた時点でキャリアの切り替えを推奨する通知がポップアップで表示され、そこからワンタッチで現地のキャリアに切り替えることが可能。
ちなみに日本などのProject Fiが開始されていない国に行った場合は、Pixel 2に現地キャリアなどのSIMを挿すことで、通常通りそのモバイルネットワークを利用することができます。またSIMスロットに何かしらのSIMを挿した状態のまま米国に戻ってもProject FiのeSIMに切り替えて運用することができます。
つまりPixel 2はeSIM・SIMを自由にに切り替えて、その地における最適なモバイルネットワークで運用することができるわけです。若干複雑かもしれませんが、かなり未来感がありますよね。
今後のeSIMの展望予想
一応2017年より日本国内でもサービスが開始されているeSIMですが、海外と比べるとやはりその内容は限定的です。また日本では格安SIMにeSIMプラットフォームが解放されていない点もeSIMの普及を妨げる要因となっていますし、そもそもキャリアを跨げるようなプラットフォームを大手キャリアが格安SIMに対して解放するのかどうかも疑問です。
これらを踏まえると、日本においてはすぐにeSIM本来の利点を活かしたサービスが展開されることはかなり薄いと言えます。
しかし例えば、dtab Compact d-01J+eSIMのようにユーザー自身が携帯電話情報を登録して初期アクティベーションができるサービスや、Apple Watch Series 3のように1つの電話番号を複数の機種でシェアできるeSIMサービスの登場はかなり現実的かと思われますし、それなりに需要も高いはずです。
現状日本において、親回線のデータ通信料を子回線でもシェアできるサービスは大手キャリアと格安SIM共に展開されていますが、1つの電話番号を複数の機種でシェアできるサービスはApple Watch Series 3以外に展開されていません。
スマートフォンの2台持ちもそれなりに一般化している昨今、スマートフォンとウェアラブルの電話番号共有よりも、スマートフォンとスマートフォンの電話番号共有のほうが魅力的ですよね。そんなサービスを切望しているユーザーも多いかと思います。
また国内キャリアを跨ぐようなeSIMは現実的ではないとしても、現状格安SIMの弱みともいえる海外渡航時割高なローミングサービスに代わるような、eSIMを活用した現地キャリアへの簡易切り替えサービスも需要が高く現実的で、そして大いに期待できる新サービスと成り得ます。
まとめ
eSIMは本来埋め込み型のSIMを意味する新規格なのですが、まだサービスが開始されて間もない現在においても、すでに複数の形状や複数の利点があり、国やキャリア・機種によってその中から利点をチョイスして展開しているような複雑な内容となっています。
その分ユーザーも理解しにくくなっていますよね。
本来のeSIMの利点を活かしたユーザーが意図するサービス展開と、実際に国やキャリアが展開できるサービスに相違があり、サービス自体もまだ開始されて間もないことから、現状の一般的な低い認知度は致し方ないことではあるかと思います。
ただだからこそ革新的でわかりやすくユーザーが手を出しやすいeSIMサービスが出てくれば、一気に普及することは間違いないでしょう。そしてそれこそがスマートフォン業界の次なる展開の鍵を握る重要な要素かと、筆者は感じています。
そのために大手キャリアや格安SIMブランドには越えてもらわないといけない壁がいくつもありますが、2018年のeSIMサービスの新展開に期待しても良いはず。注目です。